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〔午後の曳航〕
子供の頃、新聞の片隅に「出船入船」という小さな欄があった。
その日、洞海湾に出入りする船舶の船籍や総トン数、積荷などが記されていた。
ある時期、朝刊のその欄をチェックすることが小学生だった僕の大切な日課になっていた。
そして待ちかねた土曜日の午後ともなると友達と誘い合って、実際の船を見るために高塔山を駆け上がったものだった。
当時、山は現在のように整備されたものではなかったけれど、僕たちの格好の遊び場でもあったから、
港を真近かに見下ろす一番の場所を見つけることなど造作もないことだった。
そこに腰を下ろしたり寝そべったりして見知らぬ国の名や国旗に心を躍らせ、様々な船を眺めては空想の時を過ごしていた。
何年生かの春休み迄続いたそれは、やがて将来の夢や大人の世界のことへと広がっていった。
その後、僕の興味も野球へと移り、あれほど夢中になっていた船のことも記憶のかなたへ遠ざかっていった。
それでも山へ行けなかった土曜の雨は、大人になった今も嫌いだし船を眺めているといつでも子供に戻る。
あの懐かしい早春の日溜りとともにあった友とも、もう会うことはないが幼かった僕たちにとって、正しく港は世界に開いた窓だった。
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