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読みかけの本のある風景                                             




その作家が港町で育ったということも影響したかもしれない。

少々しみや傷みのある赤い表紙の「カミュの手帖−2 反抗の論理」という本がある。

二十代の頃は肌身離さずといった風だったから、ほとんどの記述をそらんじることが出来た。 なのに数十年振りで読み返してみたら、まったく憶えのない箇所が一つあった。

《昼間のあいだ鳥が飛んでいるときは別になんの目的もなさそうに思えるのに、夕方になると、 彼らはいつも一つの方角を目指しているようだ。彼らはなにかに向かって飛んでゆく。同様に、多分人生の暮れ方にも……といって、 人生に夕暮れがあるのだろうか?》